福岡高等裁判所 昭和52年(ネ)351号 判決 1977年10月24日
控訴人
古賀勝
被控訴人
大牟田信用金庫
右代表者代表理事
須賀勇
右訴訟代理人
田中光士
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人金庫の定款中の「総代会」に関する規定の無効であることを確認する。被控訴人金庫は毎事業年度一回の通常総会を招集せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるので、これを引用する。
(控訴人の主張)
被控訴人金庫のいうところによると、総代は五〇名で、総代でない会員は五、〇〇〇名であるとのことである。したがつて、五〇名の総代は総代会に出席して被控訴人金庫の運営に参加し得るが、総代に選任されない五、〇〇〇名の会員は、除外されて、被控訴人金庫の運営に参加し得ない。すなわち、総代数の一〇〇倍の会員が除外されていることになる。
そして、前記五〇名の総代は、総代会に出席して、次の事項について意見を述べることができ、票決の際はその有する一票を投ずることができる。
(一) 財産目録、貸借対照表、損益計算書、剰余金処分案
(二) 理事その他の役員の選任
(三) その他すべての事項
これに反し、総代に選任されない五、〇〇〇名の会員は総代会に出席できないから、如何なる意見も述べることができない。
このような甚だしい差別待遇を定めた被控訴人金庫の定款の規定は、憲法一四条一項に違反し無効である。
(証拠)<略>
理由
一被控訴人金庫の定款中の「総代会」に関る規定の無効確認について
当裁判所も本件訴えのうち右の無効確認を求める部分は不適法であるので却下すべきものと判断するものであるが、その理由は原判決の理由第一項記載のとおりであるので、これを引用する(ただし、原判決二枚目裏一二行目に「総代金」とあるのを「総代会」と訂正する)。
二通常総会の招集請求について
(一) 被控訴人金庫の本案前の主張について
<証拠>によれば、控訴人は福岡地方裁判所大牟田支部に対し被控訴人金庫を被告として昭和五〇年度の通常総会の招集を求める訴訟(同庁昭和五〇年(ワ)第一一六号)を提起し、同裁判所支部は信用金庫の会員には通常総会招集請求権は法令上認められていないので、控訴人の被控訴人に対する通常総会招集を求める訴えは不適法であり却下する旨の判決をし、その後、右判決は確定したことが認められる。
しかしながら当裁判所は、本件において、被控訴人金庫の会員である控訴人に通常総会招集請求権が法令上認められているかどうかは、本案として審理判断すべき事項であつて、本案の審理に先行する訴訟要件にあたらないので、本訴には前記判決の既判力が及ばないものと解する。
したがつて、被控訴人の本案前の主張は失当である。
(二) 本案について
控訴人の右請求は、被控訴人金庫の定款中の「総代会」に関する規定が無効である場合には、会員に通常総会招集請求権が認められることを前提としている。そこで、まず、信用金庫の会員に右の請求権が認められるかどうかについて判断する。
信用金庫法(以下「法」という)。は、信用金庫における総会については、通常総会と臨時総会の二つを規定している。まず、通常総会について、法四二条は「通常総会は、定款の定めるところにより、毎事業年度一回招集しなければならない。」と規定し、その招集の決定については、法四九条により商法二三一条の規定が準用され、理事会がこれを決することとされているのみである。次に臨時総会については、法四三条一項は「臨時総会は、必要があるときは、定款の定めるところにより、何時でも招集することができる。」と規定し、その招集の決定について、右の法四九条による商法二三一条の規定を準用する外に、法四三条二項、四四条の各規定により総会員の五分の一以上の同意を得た会員に一定の手続のもとに臨時総会招集権および招集権限が認められている。以上の規定を総合すると、通常総会については、会員は招集権限を有しないばかりでなく、さらに理事会に対する通常総会請求権を有しないものと解される。なぜならば、通常総会については、法四三条二項、四四条に類する規定がないこと、通常総会が招集されない場合には、会員には法四三条二項、四四条の規定により臨時総会を招集する途があること、また、法九一条一一号の規定により、通常総会の招集を怠つた理事に対しては一万円以下の過料の制裁が加えられ、これにより間接的に通常総会が強制されていること、もし、通常総会についても会員に招集請求権および招集権限を認めれば、その要件が不明確であるので濫用の危険もあり、そのうえ、法四三条二項、四四条の規定とも調和がとれなくなることなどを考えれば、法は、会員の通常総会の招集権および招集権限を否定しているものと解されるからである。
そうすると、控訴人の通常総会招集の請求については、その余の点について判断するまでもなく理由がないので、これを棄却すべきである。
三以上の理由により、控訴人の本件控訴中、総代会に関する定款の規定の無効確認請求に関する部分は理由がないので棄却すべきである。そして、原判決中、控訴人の通常総会招集請求に関する訴を不適法として却下した部分は失当であつて、本来ならば取消されるべきであり、民訴法三八八条によれば、かかる場合は、控訴裁判所は事件を第一審裁判所に差戻すことを要する旨規定されているけれども、右規定の趣旨は審級の利益を保障することにあるから、本件のごとく、本案についてその理由のないことが明らかであり、事実の認定そのものについて審級の利益を保障すべき実質的理由のない場合には、敢えて第一審に差戻す必要はないものと解される。しかしながら、原判決を取消して請求棄却の判決をすることは、控訴人の申立の範囲を超える不利益を課することとなるので、本件にあつては、直ちに控訴棄却の判決をすべきである(大審院昭和一〇年一二月一七日判決・民集一四巻二三号二〇五三頁。同昭和一五年八月三日判決・民集一九巻一六号一二八四頁、最高裁判所昭和三七年二月一五日判決・裁判集民事五八号六九五頁参照)。
よつて、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(矢頭直哉 土屋重雄 日浦人司)